第2章 マンションの管理の適正化の推進に関する法律について

 

第1節       マンション管理適正化法制定の背景

 

 昭和30年前後から我が国に普及し始めたマンションは、幾度かのブ−ムを経ながら都市部を中心にその供給が続き、ストック総数は約485万戸に上り、約1,300万人の人々が生活していると推計されています。このように、マンションは、我が国において重要な居住形態となっており、国民生活にすっかり定着していますが、それまで、法律上は「マンション」という用語の定義はなく、公式的には「中高層共同住宅」という用語が用いられてきました。

一方、分譲マンションに関する法律は、民法の特別規定として制定された区分所有者の団体における意思決定ル−ル等をその内容とする「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」といいます。)が唯一の法律でしたが、国民生活におけるマンション管理の重要性がクロ−ズアップされるにつれ、区分所有法以外の行政法レベルのマンションの管理の適正化を図るための法律が必要との判断から、平成12年12月、議員立法により「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下「マンション管理適正化法」といいます。)が制定されました。

 マンション管理適正化法の目的は、マンション管理の適正化を推進するための措置を講じ、マンションにおける充実した居住環境の確保を図ることで国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することにあります。そして、その実現のために、一方でマンション管理士制度を創設し、他方でマンション管理業者の登録制度を設けたという2つの措置を中心に、規定が設けられています。

 

 

第2節       マンション管理適正化法の概要

 

1 マンション管理適正化法の概要

 マンション管理適正化法はマンション管理の適正化を推進するための措置として、@管理組合の管理者等の相談に応じ、助言、指導等を行うことを業務とするマンション管理士資格を創設しています。また、Aマンション管理業者の登録制度を創設し、国がその業務を規制するとともに、管理業者の団体を指定して、自主的に業務の改善を行わせています。当該団体は管理業務に関する苦情の解決等にもあたります。そして、B国及び地方公共団体は、マンション管理の適正化に資するための必要な措置を講ずるものとしています。国の具体的な措置としては、国土交通大臣が「マンション管理適正化指針」を定めるとともに、マンション管理適正化推進センターを指定して管理組合に対する助言・支援等にあたらせることなどを規定しています。現在、(財)マンション管理センターが推進センターとして指定されています。

 

2 マンション管理適正化指針

 マンション管理適正化法では、国土交通大臣は、管理組合によるマンションの管理の適正化に関する指針(マンション管理適正化指針)を定め、これを公表するものとしています(マンション管理適正化法3条)。管理組合は、これに留意して、マンションを適正に管理するように努めなければなりません(同4条)。その意味で、同指針は、国が管理組合に対してマンションの管理のガイドラインを示したものとして重要な意義を有しています。

 

 

第3節 マンション管理士

 

1 マンション管理士

 マンション管理士とは、専門的知識をもって、管理組合の運営その他マンション管理に関し、管理組合の管理者等又はマンションの区分所有者等の相談に応じ、助言、指導、その他の援助を行うことを業務とすることのできる国家資格取得者です。

 

2 マンション管理士の業務

 マンション管理士の具体的な業務としては、マンションにおける管理組合や理事会の運営、区分所有者間のトラブルや管理組合と区分所有者間のトラブルの解決、建物や設備の維持、管理組合の会計、集会の運営、規約の設定・変更、管理業者との契約に関する事項などについて、管理組合の管理者等の相談に応じ、助言、指導、その他の援助等を行うことなどが挙げられます。

 マンション管理士でない者もそれらの業務を行うことはできますが、業務を行う際に「マンション管理士」やこれと紛らわしい名称を使うことはできないとされています(マンション管理適正化法43条)。

 

3 マンション管理士の義務

 マンション管理士には、定期的に講習を受ける義務(マンション管理適正化法41条)や、信用失墜行為の禁止(同40条)、秘密保持義務(同42条)があります。秘密保持義務については、マンション管理士ではなくなった後でもその業務に関して知り得た秘密は漏らしてはならないことになっています。マンション管理士がこれらの義務に違反した場合は、国土交通大臣によって処分がなされます。(同33条第2項)

 

4 マンション管理士制度の周知状況等

 平成15年度マンション総合調査によれば、マンション管理士制度については、「よく知っている」、「大体知っている」及び「名前ぐらいは知っている」を合わせると約8割となり、概ね同制度が周知されていることがうかがえます。また、マンション管理士の活用意向については、「活用してみたい」とそうでない管理組合はほぼ半々となっています。マンション管理士の活用形態としては、「必要に応じ個々に相談」が約71%と最も多くなっています。

 

 

第4節 マンション管理業及び管理業務主任者

 

1 マンション管理業

 管理組合から委託を受けてマンションの管理に関する事務を行う業者は、国土交通大臣への登録が義務づけられています。そして、この登録を受けたマンション管理業者は、一定数の管理業務主任者を事務所ごとに置かなければなりません。さらに、業務規制として、重要事項の説明、契約成立時の書面の交付、財産の分別管理、管理事務の報告等が義務づけられています。

 

2 管理業務主任者

 管理業務主任者とは、管理業務主任者試験に合格後、国土交通大臣の登録を受けた者であって、5年毎に更新される管理業務主任者証の交付を受けた国家資格者です。

 管理業務主任者は、管理の前提となる管理受託内容の重要事項説明から、受託した管理業務の処理状況のチェック及びその報告に至るまで、マンション管理の枢要なマネジメント業務を担います。

 マンション管理適正化法では、管理業務主任者の業務として、

 @ 委託契約の内容及びその履行に関する重要事項について、区分所有者等に対する説明会において説明すること(72条)

A 重要事項を記載した書面及び契約成立時の書面に対する記名押印(72条5項、73条2項)

B 管理組合に対する管理事務の報告(77条2項)

が規定されています。

 

3 標準管理委託契約書

 現在、多くのマンションでは管理組合がマンション管理業者と契約をし、管理業務を委託していますが、契約成立時に交付する書面としてる場合の指針として国土交通省から「マンション標準管理委託契約書」が示されます。

 マンション標準管理委託契約書は、典型的な住居専用の単棟型マンションに共通する管理事務に関する標準的な契約内容を定めているものです。そして実際に契約書を作成するに当たっては、個々の状況や必要性に応じて、内容の追加、修正を行いつつ活用されるべきものとされています。同契約書においては、マンション管理適正化法第2条第6項に定める管理事務をマンション管理業者に委託する場合を想定しているので、警備業法に定める警備業務、消防法上の防火管理者が行う防火管理業務等は契約の内容に含まれてはいません。

 マンション標準管理委託契約書は、第1条から第24条までで構成されています。それに、別紙1、2及び別表第1〜第4が付されています。この標準管理委託契約書に規定されている主な事項は以下のとおりです。

(1)マンション管理事務の内容及び実施方法(3条、4条)

(2)管理事務に要する費用の負担及び支払い方法(6条)

(3)管理員室等の使用(7条)

(4)緊急時の業務(8条)

(5)管理事務の報告等(9条)

(6)管理費滞納者に対する督促(10条)

(7)有害行為の中止要求(11条)

(8)専有部分等への立入り(13条)

(9)管理規約の提供等(14条)

 

 

第5節 マンション管理適正化推進センターの指定とその役割

 

1 マンション管理適正化推進センターの指定

 マンション管理適正化推進センターは、管理組合に対する助言、支援など、マンション管理の適正化の推進に資する業務を行います。

 国土交通大臣は、管理組合によるマンションの管理の適正化の推進に寄与することを目的として民法第34条により設立された財団法人であって、管理適正化業務に関する基準に適合すると認められるものを、その申請により、全国に一を限って、マンション管理適正化推進センターとして指定することができるとされており、これを受けて、(財)マンション管理センターが、マンション管理適正化推進センターとして指定されています。

 

2 マンション管理適正化推進センターの役割

 マンション管理適正化推進センターは、管理組合によるマンション管理の適正化を推進に資するために必要な業務を行います。

 マンション管理適正化推進センターが行う管理適正化業務は、以下のとおりです(マンション管理適正化法92条)。

 (1)マンションの管理に関する情報及び資料の収集及び整理並びにこれらの管理組合の管理者等その他の関係者への提供(同条1号)

 (2)管理組合の管理者等その他の関係者への技術的支援(同条2号)

 (3)管理組合の管理者等その他の関係者への講習の実施(同条3号)

 (4)マンションの管理に関する苦情処理のために必要な指導及び助言(同条4号)

 (5)マンションの管理に関する調査及び研究(同条5号)

 (6)マンションの管理の適正化の推進に資する啓発活動及び広報活動(同条6号)

 (7)その他マンションの管理の適正化の推進に資する業務(同条7号)